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何ができたら「問題解決」したことになるのか〜ガニェの教えからの考察

「問題解決能力を育みたい!」 教育者のみならず,保護者の方,新人社員を指導する立場の方も,そして文部科学省も,生徒や学生の問題解決能力を育成したいと考えています。そもそも何ができたら「問題解決」したことになるのでしょうか。 今回はこの問題について考えていきましょう。

インストラクショナル・デザイン理論の生みの親の一人,ガニェ(Robert M. Gagne)が提唱した学習成果の5分類は,学習目標を次の5つに大別しています。

  • 言語情報(verbal information)
  • 知的技能(intellectual skills)
  • 認知的方略(cognitive strategies)
  • 態度(attitudes)
  • 運動技能(motor skills)

これらのうち問題解決に主に関わるのは知的技能と認知的方略です。

知的技能についてはさらに次の下位分類があります。番号が大きくなるにしたがって高次な学習目標になります。最も高次な学習目標は問題解決です。

  1. 弁別(discrimination)
  2. 具体的概念(concrete concept)
  3. 定義された概念(defined concept)
  4. ルールと原理(rule and principle)
  5. 問題解決 (problem-solving)

認知的方略については,普通の認知的方略の他に問題解決方略(problem-solving strategy)があります。問題解決と問題解決方略の違いについては後述します。

さて,ガニェは問題解決の本質は何だと考えているのでしょうか。それを読み解くために,問題解決の一つ下の段階であるルールと原理から考えてみましょう。ルールと原理の知的技能の代表例として「1桁の自然数の掛け算」があります。これは,与えられた2つの数(たとえば2と3)に対して「九九」という法則にあてはめて(この例では「にさんがろく」),適切な解(この例では6)を導きだします。一般化すると,与えられた問題に対し題意に沿った法則をあてはめて解を導き出すことがルールと原理の知的技能だというわけです。

もしここで,学習者自らが,観察を続けたり数々の試行を経たりしながら,ある法則を見出したとしたらどうでしょう。これこそ問題解決そのものではないでしょうか。ガニェはまさにそう考えたのです。

そこで,ガニェは問題解決を表す行為動詞として generate と表現しました。直訳は「生成する」ですが,何を生成するのかというと問題を解決する規則を「生成する」ということなんです。

私は「生成する」に代わる問題解決のよりふさわしい行為動詞の訳語として「編み出す」を提案します。問題を解決する新しいやり方を編み出すことが問題解決の本質なのです。

一方,問題解決方略は何でしょう? 認知的方略は一言で言うと「学び方を学ぶ」能力です。言い換えれば,いったん学習のコツをつかんだときに,そのコツを他の問題に応用する力です。もし,ある未知の問題を解決するにあたって,全く別の問題を解決するのに役立つ解決方法をいくつかあてはめたら解決できたとしましょう。それこそが問題解決方略です。

まとめると問題解決と問題解決方略の違いは次の通りです。

  • 問題解決(知的技能): 初見の問題に対し,その解決に必要な新たな法則を編み出す能力
  • 問題解決方略(認知的方略): 初見の問題に対し,既知の方略をいくつか適用して解決する能力

これらは別個の能力だというよりも,問題解決能力を知的技能/認知的方略というそれぞれ別の観点から説明したものだと言えそうです。


参考文献: インストラクショナルデザインの原理: 原著(英文)

インストラクショナルデザインの原理

ある程度インストラクショナル・デザインの経験を積んだ後に,この本を読むととても深い示唆が得られます。また,授業実践を論文にするときには,この本を辞書代わりにして原著と照らし合わせながら執筆するといいですよ。


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