「教わる」から「学ぶ」へのトランジション〜高校生向け大学体験ワークショップ
2015年6月10日(水)に高校1年生向け模擬授業をしました。普通だと講義をするところですが,今回は即席のワークショップをやりました。今時の高校生がどんなことに関心を持っているのかを知りたかったのです。
ワークショップでどんなことをやるのか,イメージは湧いていました。2015年4月に学部1年生向けの宿泊型新入生オリエンテーションの夜の企画として,グループに分かれて「未来のスマートフォン」を企画しプレゼンテーションするというワークショップが行われました。今回の模擬授業ではこのアイデアを拝借しようと,かねてより思っていたのです。
新入生オリエンテーションで先生方からあがってきた改善点のひとつとして,せっかく「未来のスマートフォン」を学生たちが企画してくれたので,技術的なコメントなどのフィードバックをしてあげればもっと面白い企画になったのに,という声がありました。そこで,模擬授業のワークショップではフィードバックを重視することにしました。模擬授業に来るのは高校1年生ということだったので,高校生たちが考えたアイデアと密接に関連する理科や数学の小話をすることで興味を引こうと考えました。
さらに情報収集したところ,今回の模擬授業の前に機械科や建築科の学生たちがプレゼンテーションするという話を聞きました。そこで,テーマとして「未来のスマートフォン」だけでなく,「未来のクルマ」「未来の家」を含めた3つのテーマをあげて,高校生に選ばせることにしました。
ここまで組み立てたところで,この模擬授業のイントロダクションをどうするかを考えました。着目したのは,講義ではなくワークショップを採用したことが高校生にとってどんな意味を持つかという点です。普通の講義とワークショップの違いの1つは能動的な学びの度合いだろう,これは中学・高校までと大学の教育の違いとも関連するぞ,とすれば第3回反転授業公開研究会での溝上真一先生の講演の能動的な学びへのトランジションを話せばいいぞ!,とひらめきました。
そこでイントロダクションとして中学・高校までの「教わる」から,大学での「学ぶ」「研究する」へ姿勢が変わる話をていねいにしようと思い立ちました。具体的には次のような話を,ホワイトボードに板書しながら高校生でもわかるような平易な言葉で説明しました。
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生徒たちが経験した中学・高校の授業では必修科目がほとんどで選択科目は少ない。大学では半々くらいか,選択科目の方が多いこともある。このことからもわかるように,大学では自分で選んで授業を受ける。受動的に「教わる」から,能動的に「学ぶ」に変わっていく。
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理系の場合は,座学でない実験・演習科目がとても多くなり重要視されている。単にうわべの知識を身につけるだけでなく,深く理解したりスキルを身につけたりすることが求められる。
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4年生になると研究が加わる。大学では時代の最先端を扱うようになっていくので,教科書に書かれていない世界で初めてのことに取り組むこともある。このような研究では,世界中の文献を探して関連しそうなものがないかを探し,実験などをして仮説を検証したりする。
その後で,先ほど挙げた次の3つのテーマをあげ,高校生たちに2〜3名のグループに分かれてテーマを自由に選ばせてアイデアを出させます。
- 未来のスマートフォン
- 未来のクルマ
- 未来の家
アイデアは1つずつ要点を1枚の付箋に書くように指示します。アイデアを書く付箋は黄色の付箋としました。もう1種類,ピンクの付箋を用意し,大学についての質問,もっと知りたいこと,ワークショップの感想などを書いてもらうことにしました。この模擬授業の真の目的は,実はこのピンクの付箋を集めることだったりします。
あとは学生と手分けして机を周って個別にフォローアップし,興味関心を引き出そうと試みました。私がやったことは,出てきたアイデアの中から1つ2つ選び,関連する科学的雑談をしてアイデアを膨らませるという作戦です。たとえば「充電不要なスマートフォン」のアイデアに対し,ガルバニ電池の小話をしてみたりしました。昔,たくさん読んだ科学の歴史の雑学的知識を存分に発揮したわけです。模擬授業を手伝ってくれた学生たちにも,それぞれ自分の得意を発揮して思うままに高校生たちにアドバイスするよう指示しました。
ほとんどの高校生たちはワークショップを面白がってくれたようです。中にはビックリするくらいものすごくたくさんのアイデアを出してくれた高校生もいました。こういう場合はすべてのアイデアにフィードバックすることは無理なので,高校生にお気に入りのアイデアを選んでもらい,それに絞ってフィードバックをします。
中にはワークショップに馴染めない高校生もいました。そういう高校生ほど,フィードバックをていねいにするべきです。ワークショップ講師の基本的な姿勢としては,熱中している高校生は最初は放っておき,馴染めない高校生に狙いをつけて何とか関心を引き出すことに専念します。そうやって場を温めてから,時間の最後の方で熱中している高校生のフォローアップをします。
時間の終わりに簡単にまとめの話をして,ピンクの付箋を書くように指示しました。所要時間はだいたい1時間ほど。
今回のワークショップは,パーフェクトな成果とは言えませんが,高校生の関心事を把握し,理系に興味を持ってもらうという目的はまずまず達成できたかな,どうかな,と思っています。
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