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中学理科の学習で現れた現象からの一考察

確証はないですが,「なぜ女性が高校で物理を学ぶことを選択しないのか」について,ある仮説を得ました.

中学理科「光の屈折」を学ぶときに現れた現象

中学理科「光の屈折」を学ぶときに家族が抱いた疑問点は,「空気中の光源からガラスを通って,反対側から再び空気中に出て視点に入る時,なぜ光源からガラス面までの光の経路と,ガラス面から視点までの光の経路が平行になるのか?」という点でした.その時に説明した時の作図により,さらに妻が「見かけの光源が,実際のガラスの端点より外側にあるのはおかしいので,ガラスの端点がもっと外側にあるべきではないか?」という疑問を持ったのでした.

(あとで時間を見つけて,図を書いて詳細に説明します)

後者の疑問にきちんと答えるためには,中学理科の時には学ばず高校物理になってから学ぶ「屈折率」という概念を用いないといけませんでした.

物理を選ばない理由

ようやく理解した妻が,自分が中学生だった時のことをふりかえって,「このように自然と生じる疑問について,中学理科の知識の範囲では理解できないことが多々あり,物理が嫌いになって,高校の時に物理を選ばなかった」というような趣旨のことを述べました.それを聞いた私は,その時に次のようなことを思いました.

仮説1: 中学の時点で物理を好きになるためには,次の3つのうち,少なくとも1つが成立しないといけない

  • 先のことを学ばないと説明できないような素朴な疑問をそもそも思いつかない
  • 先取り学習をしていて高校より先の物理についてを理解している
  • 科学史について学んでいて,科学が次のような原則に基づいた歴史を辿ってきたことを知っている
    • ある確かな実験結果について,その時点の理論で完全に説明できなかった場合,さしあたり, その実験結果が正しくて,今までの理論では説明できないか,理論が間違っているものとして,その実験結果と今までの理論を全て説明できるような新しい理論が出来上がるまで保留にしておく

女性の多くが高校で物理を選ばない理由についての仮説

一旦風呂に入った私は,「もしかすると,女性の多くが高校で物理を選ばない理由を説明できるのかもしれない」と思いました.すなわち,次のような仮説を立てました.

前提事実: 中学生時点において,女性の方が男性よりも,多くの場合,早く成長期を迎える

仮説2: 中学生時点において,女性の方が男性よりも,知能面や精神面でも早く発達する

仮説3: 仮説2より,女性の方が男性よりも,先のことを学ばないと説明できないような素朴な疑問を思いつきやすい

仮説4: 仮説1と仮説3より,女性の方が男性よりも,中学の時点で物理を嫌いになる確率が高い

仮説5: 仮説4より,高校で理科科目を選択するときに,女性が中学で印象の悪かった物理を選ばない確率が男性よりも高まる

追記: 授業で納得がいかなかった経験が授業嫌いを生むこと,そして日本の初等・中等教育で教員に余裕がないことが根源的理由であること

Twitterでいつも貴重なご意見をいただいている Kaori YAMADA 先生に,この仮説に意見がないかリクエストしたところ,とても貴重なご意見をいただきました.

https://twitter.com/KaoriYamada01/status/1723388076049752418

次のようなことでした.

  • 自分は高校物理選択である
  • 幸い小中学校では本をよく読んで自分で調べて疑問を解決していたので,授業の範囲で納得がいかなかった経験を持っていない
  • 物理を忌避した経験のある女性に(本仮説に対する意見を)聞いた方がいい
  • 男女の別にかかわらず,授業内容で「ここはまだ習っていないから」という理由で,納得いかない,間違った理論を押し付けられると,その授業が嫌いになる可能性が高まるだろう
  • 男女にかかわらず,成長の早さや習熟度に差があると,こうした問題が起きやすいので,習熟度に応じた教え方をした方が良い
  • アメリカは,習熟度に応じた教え方をするような教育である
  • 日本の,全員に同じことを教える,平均値を上げるような授業だと,上と下が取り残されるだろう
  • 教員1人あたりの生徒数が多すぎて,サポートの教員もいないので難しいのかもしれない

これを聞いて,2つ重要なポイントがあると思いました.

  • 男女関係なく,授業で理不尽で納得のいかなかった経験があると,その授業を嫌いになる可能性が高まる
  • 日本において,児童・生徒・学生が授業で抱いた疑問に教員が向き合えないのは,教員に余裕がないことが原因である可能性が高い

これを踏まえると,初等・中等教育において,児童・生徒あたりの教員数を増やし,児童・生徒が授業で抱いた疑問に教員が個別に丁寧に向き合える余裕を作ることが,日本の教育の諸問題を解決する可能性があると思います.たとえば,回り回って,女性が,高校で物理を選択する確率を高め,理系に進学する確率を高めることにつながると言えるかもしれません.

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