「完全習得学習」スゲー!!!
「完全習得学習」に大いに興味を持ったので,参考図書として挙がっていた下記の金先生の文献を読み始めました。
金豪権(1976)梶田訳「完全習得学習(マスターラーニング)の原理」文化開発社
先ほど,第1章・第2章を読み終えたところですが,完全習得学習が編み出されるに至った背景・問題意識を読んで,雷に打たれる思いがしました。たとえば第1章には次のような驚くべきことが書かれています。
「学習失敗への自己充足的予言」
相対的評価の価値観では,子どもたちの成績は正規分布にしたがい,たとえば約3分の1は充分な学習をし,他の約3分の1はギリギリで,残りの約3分の1はいくら学習しても伸びないだろうと分類されます。普通の考えでは,どんな学習方法をとったとしても,このように自然とわかれるものだと言われます。そして事前に立てた子どもたちの成績に関する予測は,結果には影響しないと考えらています。これを「学習失敗への自己充足的予言」と呼びます。
しかし,「オーク校の実験」によって,教師が子どもたちのことを優秀だと思って教育すれば優秀になり,逆に子どもたちを愚鈍だと思って教育すれば成績が悪くなるという結果が得られました。オーク校の実験の方法は,「成績が急伸するであろう子どもたち」を選んで名簿に記載し教員に配布するのですが,実際にはこの子どもたちはランダムに選ぶ,というものです。結果は驚いたことに,本当にその子どもたちは成績が急伸したことが統計的に優位に示されたというものです。つまり,「この子は成績が伸びそうだ」「この子は成績が伸びなさそうだ」という予測は,実際に教育結果に大きな影響を与えるということが実験で立証されたわけです。
今,私が担当している(たびたび基盤的教育論のレポートでも取り上げた)「ソフトウェア設計論」の授業の目指すべき方向性は,完全習得学習だろうと漠然と感じていましたが,今年の授業は正直申しまして壁に突き当たっていて打開策を考えなければならないところでした。そして問題の多くは学習者の側にあるのではないか,完全習得学習を目指す限界なのではないか,と分析していたところでした。
そんな時に,金先生の熱い言葉が書かれた本書籍と出会って,考えを曲げてはならないと認識しました。私の授業でどこまで完全習得学習を実現できるのかわかりませんが,ベストを尽くし,教育として,そして教育研究として完成に近づけていこうと決意した次第です。
金先生のこの書籍,既に絶版で,古本でも入手は極めて困難です。全国の大学図書館には何件か所蔵があるようなので,もし興味を持たれた方は図書館経由で入手するといいと思います。そして,完全習得学習に興味を持たれた方とはぜひ情報交換したいです!