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高等教育に求められる学びのトランジション(遷移)

田原真人さんとのZoom対談で得た気づきを少しずつ私なりにまとめていきます。手始めに,最後の方で議論した,ボーズ粒子とフェルミ粒子と,アクティブ・ラーニングとの関係について考察しました。

【対談】山崎進(北九州市立大学)と田原真人(反転授業の研究)

ボーズ粒子とフェルミ粒子の話は 54:36 あたりからです。その背景となる自己組織化についてのディスカッションは 41:32 から始まります。

ボーズ粒子・フェルミ粒子とは?

ボーズ粒子・フェルミ粒子というのは量子力学で登場する概念です。理論上の正確性は置いておいて,直観的に説明すると次のように解釈すれば,それほど間違っていないと思います。

  • ボーズ粒子: 同じ状態をもつ粒子が複数存在しうるような粒子。いいかえれば,ある粒子と同じ状態をもつような他の粒子が存在しうるような粒子。
  • フェルミ粒子: ある状態をもつ粒子がただ1つしか存在しないような粒子。いいかえれば,ある粒子と全く同じ状態をもつような他の粒子は存在しないような粒子。

量子力学では,ボーズ粒子であるかフェルミ粒子であるかによって,その粒子のふるまいが大きく変わります。また,ボーズ粒子・フェルミ粒子それぞれがどのようにふるまうのかを理論的に予測し体系付けています。

田原さんの示唆: ヒトの集団においても,ボーズ粒子・フェルミ粒子的なふるまいが見られるのでは?

田原さんがまず示唆したのは,ボーズ粒子・フェルミ粒子の考え方をヒトとヒトの集団にも応用できるというアイデアです。具体的には次のような感じです。

  • ボーズ集団: 同じ能力・立場・役割等をもつヒトが複数存在するヒトの集団。いいかえれば,構成員の代替が可能な集団。
  • フェルミ集団: ある能力・立場・役割等をもつヒトがただ一人しか存在しないようなヒトの集団。いいかえれば,かけがえのない構成員で組織された集団。

田原さんが興味深く観察している社会現象は,ボーズ集団からフェルミ集団への遷移が起こっているという現象です。

  • 一斉講義形式の授業などマス教育は,同じ状態の学習者の集団,すなわちボーズ集団を扱う教育手法です。一方で,反転授業やアクティブ・ラーニングなどの延長線上では,学習者それぞれの個性が発露している授業づくりがされています。これは同じ状態の学習者が存在しない集団,すなわちフェルミ集団を扱う教育手法なのかもしれません。
  • 農耕社会・工業社会・均質社会を前提とする社会や企業の風土は,同じ状態の単純労働者の集団,すなわちボーズ集団を統率するマネジメントを行います。一方で,知識社会・情報化社会・多様化社会を前提とする社会や企業の風土は,異なる状態の知識労働者の集団,すなわちフェルミ集団をファシリテート(促進)するマネジメントが必要になってくるのかもしれません。

山崎の気づき: そういえばジグソー法は,ボーズ集団からフェルミ集団への遷移を意図的に起こす教授方略なのかもしれない

田原さんの話を伺って,私が真っ先に連想したのは,ジグソー法でした。

ジグソー法について次の図で説明します。

ジグソー法

  1. (図の左側) 最初のグループ学習では,それぞれのグループで異なる学習内容(知識・スキル)を習得します。
  2. (図の右側) 次に,1つのグループにそれぞれの学習内容を習得した学習者が1名ずついるようにグループを組みかえます。次に行うグループ学習では,一人一人が各学習内容の専門家として役割分担して作業を行います。

ジグソー法の効果として,次のことが挙げられます。

  • 1で学んだことが,2の状態で得られる気づきにより,深まります。
  • 2の状態になった時に各学習者が専門家としての責任を果たさないといけないプレッシャーがあるので,1の状態のときに十分学ぼうとする意欲を促進します。

私が気づいたのは,ジグソー法はボーズ集団からフェルミ集団へのトランジション(遷移)を意図的に起こしているということです。すなわち次のように解釈できます。

  1. (図の左側) 最初のグループ学習では,それぞれのグループで異なる学習内容(知識・スキル)を習得します。このグループ構成は,同じ役割を持つ学習者が複数存在するので,ボーズ集団だといえます。
  2. (図の右側) 次に,1つのグループにそれぞれの学習内容を習得した学習者が1名ずついるようにグループを組みかえます。次に行うグループ学習では,一人一人が各学習内容の専門家として役割分担して作業を行います。このグループ構成は,同じ役割を持つ学習者が1人しかいないので,フェルミ集団だといえます。

ボーズ・フェルミとジグソー法

このようなボーズ集団からフェルミ集団への遷移を意図的に起こすような教授方略を活用することで,知識社会・情報化社会・多様化社会に適合する人材の教育に役立つ可能性の手応えを,田原さんとのディスカッションで得ました。(つづく)

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