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山崎進研究室の運営方針の大転換期

今まで山崎進研究室では,基本的に学生のやりたい研究テーマを自由にやらせる方針を採っていましたが,状況の変化を鑑みると,学生に自由に研究テーマを選ばせる方針と,大学院博士前期課程の修了要件の厳格化への対応と学生による研究業績の積み上げは,両立するのはほぼ不可能であるということに思い至りました.

背景

今までは,基本的に学生のやりたい研究テーマを自由にやらせる方針を採っていました.しかし,次のような状況が生じてしまいました.

  1. 文部科学省からの要請により,大学院博士前期課程の修了要件の厳格化が求められるようになりました.その対応策として,本学(北九州市立大学大学院国際環境工学研究科)では,指導教員の指導のもとで,綿密な研究計画を立案し,その計画が妥当かの審査を受けることを,年度初めに行うことが求められるようになりました.また,修士論文発表会の際に,修了要件に足りるだけの高い水準の修士論文と発表になっていたかを厳格に審査することとなりました.
  2. 大学院博士前期課程の修了要件を危なげなく満たすためには,可能な限り,大学院入学の時点で,確固たる研究計画を立案して,指導教員から承認を受けるまでことをしておく必要があると考えられます.大学院博士前期課程は,2年間と短いです.また,本学の情報工学専攻では,ほとんどの場合,修了後に就職することが多く,博士後期課程に進学することは稀です.就職活動は年々,長期化する傾向にあります.そのため,大学院博士前期課程に入学してはじめて,研究テーマを立案するというのでは,十分な研究をするのに至らず,大学院博士前期課程の修了要件を満たすのが困難になります.
  3. 研究テーマの立ち上げには多くの労力がかかります.近年の研究は,多くの研究テーマで高度化が進んでいます.研究テーマを新規に立ち上げた場合に,先行研究に追いつくだけ,その研究領域における新規性を見定めるだけでも,かなりの労力を必要としています.一方で,一旦,先行研究に追いつき,その研究領域における新規性を見定めることができたあとは,その研究領域において数多くの研究テーマを創出することができます.
  4. 学生に自由に研究テーマを選ばせる方針を採る限り,ほぼ全ての場合で,研究テーマを新規に立ち上げることになります.先輩の研究テーマを引き継ぎたいと自分から申し出る学生はほぼいません.すなわち,せっかく研究テーマを立ち上げても,引き継ぐ人がおらずに,研究を継続しないケースが多発します.
  5. 1人の学生が研究テーマを新規に立ち上げる場合で,十分な新規性を確立した上で,学会発表や論文誌への投稿まで行えるケースは,今までの経験上,ほぼありません.このことはすなわち,学生に自由に研究テーマを選ばせる限り,学生による研究業績の積み上げを行えないということを意味します.

結論

以上の結論として,学生に自由に研究テーマを選ばせる方針と,大学院博士前期課程の修了要件の厳格化への対応と学生による研究業績の積み上げは,両立するのはほぼ不可能であるということに思い至りました.

さらなる考察

加えて,昨今の学生の様子やハラスメント事例を分析すると,いくつかの選択肢の中から,学生が自ら「やりたい」と合意したように見える研究テーマであっても,実際にはそうではないことがしばしばあるのではないかとも思い至るようになりました.

なぜならば,教員には権威性があるので,学生が本音を言えないことも大いにあり得るからです.教員側でそのことを判別することは極めて難しく,その状況の時に教員の目には,単に学生に能力もしくはやる気もしくはその両方がないように見えることがほとんどなのではないかと思います.

すなわち「学生のやりたい研究テーマを自由にやらせている」という教員の認識については,そもそも幻想なのかもしれません.特に,完全に学生の自由裁量ではなく,教員が何かしらの制約を与えている場合には,学生にとって実は不本意である場合があるものと思った方が良さそうです.

さらなる状況変化

加えて,山崎進研究室を取り巻く外的要因の変化もあります.これは,月面探査車YAOKIを2026年に100機月面に打ち上げるという,とてつもない構想に伴うものです.現在,主力としている研究テーマの成果物を2026年に月面に打ち上げるということになります.

必然的に,研究室学生を積極的にこのようなプロジェクトに巻き込んでいくのか,それとも,研究室学生とこのテーマとは切り離して放任する方針とするのか,究極の2択を迫られることになります.前述の状況を踏まえると,前者とせざるを得なくなる可能性の方が高いとなります.

さらなる考察

自分の研究テーマを学生に与える時,特に思い入れが深い研究テーマを学生に与えて,自分の意に沿わないプロセスを辿ったり結果に至ったりした時に,極度にストレスに感じることがわかりました.そのストレスに耐えることはできない.そう思いました.

一方で,「素人着想,玄人実行」という言葉がありますが,学生から「素人着想」を引き出すことには喜びを感じるし,有意義に思います.たとえば,YAOKIを題材にして,どんな研究を提案するか?を学生に問う「提案ゲーム」は,とても心地よかったです.元々,学生に自由にやらせる方が,適度に距離を保てて,ストレスがないというのもあります.

また,学生が業績をあげることに,良い意味で期待していないということも自覚しました.自分の業績は自分で稼ぐのが一番性に合っています.

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