落ちこぼれをなくす!〜完全習得学習
バーグマン(Bergmann)とサムズ(Sams)が始めた反転授業が一躍注目を集めたのは,落ちこぼれの多い成績下位の高校で驚異的な改善を見せたからです。東京大学の山内祐平先生によると,このようなタイプの反転授業を完全習得型反転学習(Flipped-Mastery model)と呼びます。この「完全習得(mastery)」というのはインストラクショナル・デザインの初期,1960年代にブルーム(Bloom)らがモデル化した完全習得学習(mastery learning)に由来します。今回は,反転授業で再び脚光を集めている完全習得学習について紹介します。
完全習得学習(mastery learning)については,下記の熊本大学の公開授業「基盤的教育論」に詳しい紹介があります。
私もこのテキストで完全習得学習という考え方に初めて触れて以来,計算機演習Iやソフトウェア設計・同演習といった授業科目で完全習得学習を目指して取り組んできました。
さて,完全習得学習という言葉には,次の2つの側面があります。
- 「学習者が完全に習得する」という理想的な状態: つまり,学習者のほぼ全員が必要な(しかし決して低くない)最低限の基準をクリアして合格する状態のことです。
- ブルームらが開発した集団的一斉授業の枠組みで1を目指した授業モデル: つまり,要所で形成的テストを実施し学習者の目標達成状況に応じて治療的な指導を行うことを集団的一斉授業の中に組み入れたプロセスのことです。
この1の理想的状態を目指す手段の1つが,2の授業モデルだと捉えればいいです。1を目指す授業方法は他にも存在して,たとえば個別化教授システム(PSI: personalized system of instruction),完全習得型反転学習(Flipped-Mastery model)などがあります。
「完全習得学習」という言葉がどちらを指すのか,インストラクショナル・デザインに通じた人とそうでない人で見解が異なる場合が多いという点に注意が必要です。つまり,インストラクショナル・デザインに通じていない人は1の理想的な状態を,インストラクショナル・デザインに通じた人は2の授業モデルを指すことが多いように思います。
ちなみに,この認識の違いが原因の1つとなって,私がある学会に論文を投稿した時に査読者と意見が対立して返戻を食らったことがあります。後になって気づいたのですが,バーグマン&サムズのように完全習得型反転学習(Flipped-Mastery model)のように「完全習得(mastery)」を取り入れた新しい授業モデルだと提案すればよかったのかもしれません(そのときはそんな知恵は回りませんでした)。
さて,私はこのブログ記事の前半で「計算機演習Iやソフトウェア設計・同演習といった授業科目で完全習得学習を目指して取り組んできました」と述べました。はて,私は「完全習得学習」という言葉を上記の1,2のどちらの意味で述べたのでしょう?
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