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社会的課題の見つけ方〜官公庁の白書を読もう

Grant申請書を書く際に.自分の研究テーマに適合する社会的課題を見つけられないという悩みに対して,どのように取り組めば良いでしょうか.

近藤先生の教え

北九州市立大学の元学長の近藤倫明先生が,私に次のように訓示したことがありました.

「まず,トップの言葉を聞くこと」

よく,年始などに理事長や学長があいさつの言葉を述べる行事があると思います.近藤先生は,そういう言葉に耳を傾けよ,と私に説いたのです.

曰く,「このような挨拶には,今,大学でどのようなことが問題になっているのか,どういった背景でそのような問題が起こっているのか,といった情報が凝縮されている.この言葉を聞けば,自ずと今自分が何に取り組んだら良いかがわかるものである」ということでした.

それ以来,私は,機会があるごとにトップの言葉に耳を傾けるようになりました.近藤先生がおっしゃる通りでした.そこで何が問題になっているのかを知り,そこで語られた言葉について調べる習慣を身につけることで,自ずと自分の勤務する北九州市立大学の動向に敏感になりました.

言葉を変えると,よく言われる「経営者視点」を持つには,このようなことだと思います.

近藤先生は,続けて次のようにおっしゃいました.

「文部科学省が何をいっているのか,公式文書等を読むこと」

北九州市立大学の動向を踏まえた上で,これらの公式文書を読むと,高等教育でどのようなことが問題になっているのか,今後どのような方向に進もうとしているのかがよく理解できました.

社会的課題を踏まえた研究提案をするには

普段から真摯に研究に向き合っているのであれば,自ずと,自分の研究テーマでどのような問題が難しいのか,あるいは逆にどのようなタイプの問題の解決に向いているのか,把握できているものと思います.関連する問題領域のキーワードについても熟知していることでしょう.

そのようなことを念頭におきながら,官公庁の公式文書,特に白書を読んでみると,様々なことに気づくと思います.

そこで論じられている深刻な社会的課題の中には,自分の研究テーマの知見を用いることで,比較的容易に解決できそうな課題があるかもしれません.

その問題に目をつけましょう.

ケース・スタディ: 2020年度のA-STEPトライアウトと2022年度の科研費基盤Cの事例について

事例として,次の2つをまとめて紹介します.

これらで共通する問題解決の枠組みは次のとおりです.

  1. 近年,自然災害による被害が多い.この点については,国土交通白書2020 自然災害の頻発・激甚化で詳しく述べられています.
  2. SAR技術により昼夜・天候問わず観測できるようになってきている.
  3. そこで,SARで自然災害の早期検出を考える.
  4. 災害前と災害後の画像について,差分を求めれば,災害の可能性がある場所を特定できそうである.
  5. できるだけ直近の災害前の画像を確実に入手しておくには,自然災害が起こりそうな地域を予想できると好都合である→地震だと予想できないので,向かない.集中豪雨だと,天気予報で絞り込めそう.
  6. 災害が起きたあと,できるだけ速やかに救助や復旧にあたる必要がある(救助が目的であれば,1時間かかるというのでは遅すぎる)→リアルタイム性が問われる→当方の技術シーズである,コンピュータによる処理の高速化が役立ちそう!

ここでのポイントは,解決したい問題は,大きな社会的課題と位置付けられており,解決が難しいとされているという点と,提案手法は,原理がわかりやすく実現が易しい問題解決アプローチであるという点です.今思えば,このギャップがあるからこそ,採択されたのだと思います.

再び,社会的課題を踏まえた研究提案をするには

先ほどの事例を頭に入れると,より明白に,どのような視点で官公庁の公式文書・白書を読むべきかが明確になると思います.

大きな社会的課題と位置付けられているような問題の中で,自分の知見を使うと容易に解決できそうな問題を探す.

そういう視点でいくと,自分の専門分野から縁遠そうな官公庁の公式文書・白書の方が,そのような問題を探すのが容易かもしれませんね.

論文を読むのと同じように,普段からこういった文書に目を通しておくと良さそうです.

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